だれでも出来る「心の強化法」(改訂版)


                  釘 宮 義 人

 

         目  次

 はじめに(実例) ……………………………………………………2

 一、言葉による自己強化 ………………………………………10

(1)自己宣言法
(2)分割宣言法
(3)短句繰り返し(リピート・フレイズ)宣言法
(4)自己説得法
(5)自己対話法
(6)自己命令(セルフ・コマンド)法
(7)「ハイ」と答える法

 二、自分のイメージを心に描く ………………………………24

 三、モーション(動作)はエモーション(情動)を生む …………34

 四、継続せよ …………………………………………………42

 五、気分を軽快にするために、笑う練習をせよ ……………45

 六、落ち込んだ時にも回復する力 …………………………47

 おわりに ………………………………………………………55

 

 

  は じ め に

      ― まず実例を。心を強くする方法は簡単なのです ―

 「心の強化法」、つまり心を強くする方法、「そんなものがあるのですか」と疑問に思う方もおられるでしょう。
 あるのです。心を強くする方法があるのです。しかも、案外やさしいのです。この小冊子には出来るだけ、その秘訣を分かりやすく、実際的に書いたつもりですが、まず最近経験した身近な事例を次に述べましょう。
              *
 G君は私の同級生です。今も私と同じく現役、小さい事務所を持っています。彼に頼みたい簡単な事があって、電話したら、なんとも彼の声が弱い。私の頼みたい事はホンの小さな作業なのですが、
「今日はどうも、できないよ。明日にしてくれないか」
「おい、どうしたんだい。病気かい」
「うん、年を取ってから時々こうなるんだ。気持ちが落ち込んで辛いんだ」
 私は電話で言った。
「よし来た。その落ち込んだ気分を元にもどす、よい方法があるんだよ。教えてあげるから、よく聞いてくれよ」
と念を押して、私は次のように教えたのです。それは私の言う「セルフ・コマンド法」でして、くわしくはこの「だれでもできる『心の強化法』」の中に書いてあることです。こうです。
 「自分の心に向かって『私の心よ、元気になれ。明るくなれ』と命令しなさい。何度も何度も、自分の心に言って聞かせ、はっきりと命令するんです。人の心は内側で対話できる二重構造になっています。これは人間だけに出来ることです」。
 こうして二、三回繰り返して説明をしたと思います。実は、しばらくして、他の用事もあって、再び電話をすることがありました。私は心配しつつ受話器を手にしました。すると、彼の元気のいい声が聞こえてきました。
「いやあ、元気になったなあ」と私が言うと、「ありがとう。あの時、教えて貰った方法でやったら、すっかり元気になったよ」と言います。
 私もあまりに、あざやかな変化なので、びっくりしたことです。彼にはもう一度、原理を説明しましたが、後で彼にこの「だれでもできる『心の強化法』」を送ったことです。
 このG君の大変すばらしい点は、彼が私から教えてもらったことを、すぐ実行したことです。私の別冊「笑えば必ず幸福になる」にしても、この「だれでもできる『心の強化法』」にしても、これを読んで、「すばらしいですね。本当ですね。よい方法ですね。感心しました。」と相づちを打ってくれる人は多いのです。
 しかし、すぐ実行してくれる人が少ない。特に「ワッハッハハと笑いましょう」などは、私の方法を聞いたら、すぐに実行できる筈ですのに、これを実行する人が少ない。実行すれば必ず効果があがるのですがね。
              *
 私の友人の実例は、つい最近のことです。ある進学希望者の家庭で一人でキチンと勉強できた実例もあります。それは本文中に書いておきました。
 心を強くするには、特殊な病気の人は別として、医薬品は役立ちません。自分でやるほかはありません。人は助けてくれません。自分でやるほかありません。そしてやってみれば案外にやさしいのです。だれでも出来ます。
 決して難しいことではありません。一種のコツです。元来、「自分は心が強い」とか、「私は意志が強い」とか、そのような自信を本音で持っている人は滅多にいません。ほとんどの人が「自分は心が弱い」、「自分は意志が弱い」と腹の底では思っているのです。そして、自分の心を強くしたいと念願はしているのですが、そのくせ、「それは至難のことだろう」とも思いこんでいるのです。
 そこで、今回、やさしい「心を強くする方法」としてこの小冊子を書きました。薄い冊子です。どうぞ最後まで読んでください。あなたがこの方法を納得し、そして実行するならば、かならず体得でき、そして心の強い人になるでしょう。
 心を強くするのは簡単です。「心を強くする習慣」を持てばよいのです。これまでの弱い心の習慣を変えて、強い心の習慣を持ち続けるのです。これが秘訣です。そのやさしい練習の仕方を今回公開したのです。
 この練習のためには身近な、すばらしい道具があります。道具といっても機械のようなものではありません。その道具とは、まず第一に言葉です。第二の道具がイメージです。第三の補助道具が体、特に手と足や、からだのしぐさ、また表情、つまり、そうしたパフォーマンスです。これは皆、あなたの身についたものです。だからだれでも、いますぐに始められる簡単な方法です。
 それでは、本文をお読みください。読みながら、感想や疑問の点などありましたら、お手紙をお寄せください。もちろん電話やファックス、Eメールでも結構です。あなたの「精神が強くなった」成功例も、またうまくゆかなかった時も、その例を教えてくださると幸いです。

    二〇〇一年一〇月二六日
             改訂第五版の編集を終わった時に
                       釘 宮 義 人

 

 

  一、言葉による自己強化

(1)自己宣言法

 これは、自分が「あのような人になりたい」、あるいは「こんなことをしたい」などと心に願うことを目標の言葉にして、「私は………のよう人になる」、あるいは「私は………をする」と、口で声を出して言う方法です。
 できれば鏡の前に立って、自分の顔や体を見ながら叫んでください。これをアファーメイション(自己断言)とも言います。よく、自己啓発の講習会などで教えてくれる方法です。
 これは、あなたが将来の目標を達成したいと願うならば、一番おすすめしたい方法です。その目標を紙に書いて、毎日声に出して読むと良いのです。
 アファーメイションのコツはまず体をふんばって、熱情的に気分を燃やして、一句一句を断言的に声を大きくして叫ぶことです。しかし、慣れないうちは小さい声でもよいから始めてください。慣れるにしたがって段々声も大きくなり、気分も燃えてきます。
  ※実はここで「目標設定」の重要さについて述べるべきなのです
   が、一応はぶきました。事業達成などの目標設定はわりあいに
   立てやすいでしょう。しかし、理想的人物の品性に似せられた
   い、などという目標を立てることは、それ自体がたいへんな人
   生修業の一環となります。このことは又、末文に書きたいと思
   います。

(2)分割宣言法

 目標はまず遠い未来に向けて大きな目標を立てると、気分が大きくなって良いのですが、反面「そんな大きな目標じゃ到底だめだよ」と、心のうちで否定的になりやすい。そのような時は、目標を期間的に分割して短期目標をたてるのです。詳しいことは後で書きます。
 そのようにして、かなり手前にもってきた目標を達成したとします。その時、「よくやったなあ」と、自分なりのやり方で「自己称賛」するのです。多少、儀式ばってやるとよい。たとえば、ご褒美として、自分でご褒美のステーキを食べたり、あるいは温泉に行って「あんた、よくやったなあ」と自分で自分をほめるのです。本当に声を出して褒めると更に良いです。
 私が学生時代、勉強をする時、参考書を二十頁ぐらいごとに糸をはさんだものです。そこまで勉強がすすむと糸をたぐり寄せます。実は前もって、その糸の先にチョコレートをつけてあるのです。それを食べる時、大いに達成感を味わい自分で満足します。そして意気揚々と次の頁に移るのです。
 目標があまりに大きい場合、その目標を分量的に分割し、小さくして処理する。前述の参考書を一冊全部あげることは最終目標ですが、ひとまず二十頁ぐらいづつ目標を分割して糸をはさんだようにです。大きな煎餅を食べるには、小さく割って食べるのが便利だというようなことです。
 大英帝国がインドを支配した時「分割して支配する」植民政策を取りました。小さな領土ごとに現地人の王様を立てて、自治政治のようにみせかけ、彼らを満足させました。英国の利口なやりかたでした。
 時間的な方法ですと、たとえば十年先の遠い目標を、一年ごとの目標に分割するのです。一年たった時、その目標達成を見て、十年には及ばないにしても、一年でもよい、小さな喜びを味わうことにするのです。最初から、あまりに無鉄砲な目標をたてないということです。出来そうなことから目標をたてる、そして達成の喜びを味わう。これが秘訣です。
(極端にいうと、一年の計画は一か月ごとの目標に分割し、もっと極端にいうと一か月の目標を毎日の一日ごとの目標に分割するのです。これはアメリカ輸入の某成功プログラムの方法です。前日の夜に翌日の目標と達成計画をノートし、次の日の夜には、その日の目標実現をノートに書いて喜びを味わうのです。それを書くだけでも嬉しいものです。)
 こうして、目標を立てて計画した物(事)を、獲得し、達成し、成功し、そしてそれを喜び、次々に満足を重ねる体験を自分に習慣づけて行くのです。
 学生の勉強でしたら、科目ごとに楽しい学習成果を前もって宣言し、予習時間を設定します。そして、日々の学習時間を成功的に達成して行くのです。私が実際に指導して成功し、本人も家族も大いに喜んだ実例を後に書きます。
 もし営業でしたら、最初に飛込み訪問、次に手紙、次に電話、次にもう一度訪問、それから受注決定者はだれか見極め、その人に面接できる方法をさぐる。まず、受け付けの女性と仲良くなる。こうして次々に本陣に肉薄します。小さい壁を乗り越えることができたたび、「うーん、よくできたよ。お前、しっかりしているよ、感心、感心」とでも自己称賛しながら、ゆっくりコーヒーを飲んで仕事を楽しむ。こういうことです。

(3)短句繰り返し(リピートフレイズ)宣言法

 これも一種の分割法です。これは信念を養うのに実によい方法です。自分に期待する目的を、短い言葉に圧縮し、その言葉を何度も繰り返すのです。ある人が「(病気が)治る、治る、きっと治る」と何日もつづけて千べんでも万べんでも言って、とうとう難病をなおしてしまった実例があります。
 同じように「できる、出来る、きっと出来る」と千べんも万べんも言って、遂に困難な破産整理や、到底不可能と思えた発明を完成した人など、実際に多いのです。
 この何べんも言うために、補助道具に数取り器(カウンター)を利用すると便利で、有効的です。数取り器というのは手に持ってカチッカチッと会場の入り口などで入場者の人数をしらべている、あの小さな器械です。
 最近、大阪のある牧師先生が私からこのことを聞いて、「実際に祈りに利用してみたら、本当によい。何よりも、祈りが容易になった」と、ご報告を頂きました。あの「カチッという音が良い」そうです。
 この場合、言葉を一つにしぼり、単純なフレーズにしてするとよい。たとえば、「二十枚のレポートを明日完成する」と言う具合にです。
※これら(1)(2)(3)の宣言法で共通して言える効果的な秘訣は確信ありげに大きな声で、体のパフォーマンスも併用して汗を流さんばかりの熱意をこめて実行することです。それだけで大きな効果を生むはずです。絶対にテレないことです。特に家族の前でテレてしまい、気弱にごまかしてしまうようなことがないようにしましょう。大きな声、大胆な身振りで、見ている人たちを圧倒するような態度でやってください。ただし、そのように振るまえるまで、家人に隠れてこっそり日々実行をしているうちに、その習慣がついて、いつしか自信がついて人前でも平気でできるようになるということでもあります。

(4)自己説得法

 この方法は、自分自身の身近な問題の解決をはかる時、あるいは困難な状況を乗り切ろうと自分の覚悟をきめるため、あるいは憂欝な気分を一掃するため、そういった時に効果的です。小声でも良いですから、「このようになりたい」と、自分にやさしく、ささやくように言って聞かせる方法です。
 非合理的な屁理屈でも効き目があるのが不思議です。頭の中で文章に作って、理詰めに自分を説得するのです。カウンセリングで言えば、論理療法的な方法です。
 人間の意識は潜在意識のことは別にして、やはり二重構造を持っており、一方の自分が一方の自分に言い聞かせると、案外素直に聞き入れてくれる、特に理屈にかなったことは聞き入れるという性質があるようです。(これは重要な私の仮説です。)
 たとえば、ある事業を始める際、「失敗してもいいではないか。しくじったとて殺されるわけではない。いくら恥をかいても死ぬわけではない。もう一度がんばるんだ。大丈夫、大丈夫!」と、こんな具合。
 このように、その理屈がいい加減な屁理屈でもよい、案外自分の心が聞いてくれるのは、面白いところです。人間の意識構造の神秘さですね。このことをぜひ体験してください。

(5)自己対話法

 前記の自己説得法のなかに含めてもよい方法ですが、特に重い憂欝な気分の時に良い方法です。ちょっと独習は難しいと思いますが、理屈だけでも読んでおいてください。何かのときに役だつでしょう。
 憂欝な時の心の活動の特徴は、心のなかでの活発な自己対話の働きです。
「そんなことはありません。憂欝な時は心は沈滞して一向に働きません」という人があると思いますが、それは心が自分の思ったようには動かないので、そう思っているに過ぎません。実は憂欝な時は心は縦横無尽にあれこれと心配や憶測や人の思惑を思いはかって、あれこれと自己の心の中で対話をしているのです。つまりクヨクヨしている状況です。人間の心はクヨクヨしている時、もっとも内部言語の相互対話が激しい時です。
 このクヨクヨしている心の動きにたいして、「どうしたの」「ちょっと心配なんです」「ああ、あの人の顔色が気になっているのですね」「そうです」「なあんだ。あの人の顔は、いつもあんな顔ですよ、あれは何かを思い出しているんだよ。気にする必要はないよ」などと、自分に問いかけ、聞いてみる、そういう自分と話合いを始めるのです。そうすると、いつしか、気持ちが落ち着いて来ます。
 あるいは又、憂欝の時でなくとも、「何をしたらよいか」と迷っているときなどに、利用すると良い方法でしょう。

(6)自己命令(セルフコマンド)法

 目前の行動を起こそうとする時、あるいは素早い気分の転換・強化をはかる時に、この方法が効果的です。率直に、次の自分の行動や気分等、自分の「こうなってほしい」行為や心のありかたを自分の心に向かって命令しましょう。前項にあるように意識の二重構造がここでも機能します。
 例としては、私はよく朝の床のなかで、目がはっきり覚めないでウトウトしている時、「わが目よ、覚めよ」と命じます。すると、目はパッと覚める。そして「起きよ」と命じるのです。リクライニング椅子のようにファーッと起きられるのです。
              *
 この自己命令法は又、自制力をつけ、自信を身につける良い方法です。
 もう八年ほど前のことです。ある高校卒業生が大学入試に失敗して気落ちしていました。その若者をお父さんが連れて私の所にきました。予備校に行く費用を親に苦労させたくない。だからといって、一人で部屋にこもって一年も勉強をつづける浪人生活も自信が無い。どうしてよいか迷っているようでした。
 そこでまず、「大学に進学したいのか、どうか」、彼の本心を確かめました。これは大事な要点です。私は彼が進学意志がしっかりしているのを見定めてから言いました。
「君、予備校には行かなくて、家で毎日楽しく確実に勉強出来る方法を教えてあげようか」
 彼はきつねにつままれたような顔をしました。こう言って次のように説明したのです。
 「×××、と自分の名前を呼んでね、声をはっきりあげるんだよ。自分に向かってこう言うんだ。たとえば、夕刻だったらね、『今夜七時から九時まで、英語をやれっ。三十分休んで九時半から十二時まで、物理をやれっ。一時間、深夜番組を聞いてよし。一時から三時まで、数学。そして寝れっ。七時に起きるんだ。散歩して朝飯を食って九時から三時間、ぶっつづけに国文をやれっ。昼から飯を食ったら寝るっ。六時に起きて、夕飯』。
 こういう風に自分に命令するんだ。大きな声で遠慮せずに自分に命令しなさい。そうしたら必ず、君は自分がきめたとおりの勉強ができる。それと、もう一つコツはね、命令したら、すぐハイと自分で返事するんだ」。
 私の言葉を聞いた彼は「ワッハッハ」と笑って、「分かりました」と言って頭を下げた。彼は、実に家に帰ってから早速、実行したそうです。家の中で続けたそうです。お母さんは何がおこったのかと、ビックリして彼を見たそうです。
 彼はその自己命令を続けました。毎日の勉強を快調につづけ翌年三月、みごとM大学に合格したのです。
 入学してからも凄かった。新聞販売店に下宿して新聞を配達、こういうシステムは私は知らないが、下宿代はただなのだろうか。しかもバイクを貸してもらって、私用にも使ったのであろう、靴は四年間一足で過ごしたという。故郷の大分に帰るにもJRは各駅停車の列車を使う辛抱ぶり、ある時、妹さんが上京して彼は渋谷の忠犬ハチ公のそばで話し合った。
「兄ちゃん、コーヒー飲もう」と言っても、缶コーヒーですます始末。「兄ちゃんのけち」と妹さんは呆れたそうだが、そのくらい徹底したそうです。
 卒業すると、彼にすっかり惚れこんだ新聞販売店のおやじさん、この人はもともとA新聞社のOB、有力マスコミに就職を世話してくれたそうだ。卒業して立派なサラリーマンになった彼が挨拶に来てくれたが、私はこの自己命令法の素晴らしさに今更のように驚いたのである。
 彼が自己命令法によって掴んだものは、自分が計画し、自分に向かって命令したことは、必ず自分は実行できる、必ずその通りに動くという自信、いや確信である。これは強烈な自信である。これこそ典型的な自制心です。
 人間がそれなりに自己形成するための最高の徳目は自制心です。愛に富んでいても、勇気があっても、正義心に強くても、寛容であっても、その他どんな徳目に富もうと自制心がなければ、すべての徳目がバランスよく機能してはくれない。例えば愛の心が内に充満していても、実際にそれを表現するときは、相手をみた上で差し控えることがある。行き過ぎた愛情表現は相手を駄目にするからである。それが自制心である。
 新聞販売店のおやじさんが彼に惚れこんで一流通信社に就職を世話した。自己命令法を忠実に実行して毅然とした生活をしたお陰です。
 彼が就職した××通信社で、鹿児島の支社に配属されていたそうだが、三年で本社に引き上げられるべきところを支社長が本社に頼んで一年余分に鹿児島に残したそうだ。しかし、今年はもう本社にお返しするといって、一年遅れたことを父親にお詫びがきて、鹿児島に招待されたらしい。父親も荷物の東京送りの加勢をしようと思って鹿児島に行ったら支社長が大歓迎、一級ホテルに泊めてくれた上、夕食で息子の大評判を語ってくれたそうです。
「お宅のお子さんをこれ以上支社に残したら出世の妨げになります。どうしてこんなすばらしい息子さんができたのですか。秘訣を承りたい」といった様子だったそうです。
 もちろん、このご家庭の訓育のお陰でしょうが、また以上の「セルフ・コマンド」を彼が実行した故であったろうと、私は少々自慢しても許していただけると思う。

(7)「ハイ」と答える法

 (4)の自己説得や、(6)の自己命令の時、自分に語って聞かせたり、命令したりした時、自分で「ハイ」と答える、意外に効果があります。バカバカしいと思うでしょうが、自分で自分に納得させるのに大変効果があります。実際にやってみて下さい。「喜びなさい」「ハイ」、「祈りなさい」「ハイ」、「感謝しなさい」「ハイ」という風にやってみてください。心はすぐ言うことを聞きます。

  二、自分のイメージを心に描く

 以上、言葉を用いる自己強化法について述べてきました。次はイメージです。映像のみならず、音や匂いなどもイメージです。イメージは脳の記憶を助ける重要な機能です。心に印象を強く残すのはイメージの力です。
 実は前項の言葉による自己強化を実施している時、脳のほうでは無意識にイメージを使っているはずです。そのイメージをもっと積極的に利用しようというのが、ここで申し上げることです。イメージは記憶を助け、言葉はそのイメージに意味を刻みつけるのです。(意味がないと人の心は興奮しません、燃えません。それでは強い力を生めません。これが言葉の力です。)
 さて第一に、たとえばあなたの理想とする人物像を心に描いてください。あなたの描く人物像にあなたは段々似てきます。具体的なモデルがあるなら、そのモデルの姿を心に描くとよいですね。イエス様や、マザー・テレサや、徳川家康や、星野監督等を。そして、その周囲の環境などもイメージするとよいのです。例えば、ガリラヤの野や湖、喧騒なカルカッタの市街、三方が原や大阪城の戦場、阪神チームの練習グランドなど。
 その環境の中で自分の理想の人物像に似せて、すっかりその人らしくふるまっている自分を脳裏に描くのです。そのふるまう演技はマンガチックで大げさな動作がよい。その演技をパフォーマンスしている時、その時の自分の感情をも味わうともっとよい。
 ペルシャの王子様の話を知っていますか。この王子様は生まれつき、せむしでした。十二歳の誕生日が来ました。王様が「なにか誕生の祝いをしてあげよう」と言いました。王子様は「立派な体をした青年の銅像を作ってください」と言いました。「そんな……」、王様は絶句しました。ところが王子様は構わずに言いました。
 「おとうさん、その銅像を私がいつも見ておれる窓の外の庭に立ててください」。ますます父王は困惑しました。王子がみにくいせむしの自分の姿に苦しんで遂に気が狂ったのかと思ったからです。しかし、王子は正気だったのです。ついに王子の願いのとおりに立派な体をした青年の銅像が王子の部屋の前の庭に立ちました。
 そして八年たちました。王子は二十歳になりました。王子はその銅像の脇に立ちました。王様も王妃様も、王家の皆さんも、家来たちも、みんな集まって歓声をあげ手を打ってよろこびました。なぜなら、そこにはすっくと立った銅像そっくりの王子の姿を見たからです。
 毎日、窓の外の銅像を見ていた王子様は八年の歳月ののち、立派に体の変化をみせてくれたのです。
 こうした事のみならず、あなたの手に入れたいもの、家でもピアノでも、土地でも、仕事でも、地位でも、なんでもイメージにして、「これを手に入れることができる。これは私のものだ」と、言葉にして声をあげて言ってください。イメージはあなたの脳裏に印象づけられ、言葉はそれを獲得しようとする情熱を呼び起こしてくれます。この方法をビジュアリゼーションと言います。
 右脳、左脳で言うなら、言葉は左脳で意味をつける。イメージは右脳でして情緒的に脳に印刻するのです。
 ところで、「イメージを頭に思い浮かべることが下手です」、という人がいます。どちらかというと、イメージ作りは女性のほうが上手です。イメージ作りの練習のために「イメージの作り方練習」のテープを別に作りました。裏表紙の住所の教会あてお申込みください。(一本 \500)

※2015.7.12追記 上記のイメージの作り方練習のテープについて質問をいただきましたが、現在は配布しておりません。できれば、ウェブ上で公開したいところですが、元テープが見つかりません。それで、もしお手元に持っていらっしゃる方でお貸し願える方がいらっしゃいましたら、教会宛てに送っていただけると幸いです。まずはご一報ください。

  三、モーション(動作)はエモーション(情動)を生む

 前記までの言葉やイメージによって強化法を実行する時、あわせて体を動かして気分を盛り立てるとよいのです。「やっ」と手を突き出したり、バンザイをしたり、相撲のしこを踏んだりです。
 「モーション(動作)はエモーション(情動)を生む」という言葉があります。「行動によって気分がより強化される」ということです。そのためには、出来るだけ大きい身振りがよい。また号令をかけたり、応援団の練習をしたりして、大きい声も出すのもよいのです。
 後に書きますが、笑うこともこの体を動かすことの一つですね。言葉を口にして声に出すこともやはり体を動かすことの一つであります。体をおおげさに使えば使うほど、効果が強まります。感情が伴うのです。
 小さい仕草も役に立ちます。よく人は手をしっかり握りしめたり、手や足を振ったりして元気をつけ、あるいは決心をするではありませんか。

  四、継続せよ

 まず、以上述べた強化法の一つだけでも三日間やってみましょう。三日つづけると、次に三週間、二十一日間つづけるのは容易です。全身全霊でやるなら二十一日でたいていのものごとは成就します。
 名前を忘れましたが、江戸時代の僧侶が小僧の時代、記憶力が悪くて、お経が覚えられない、困った末、堂にこもって断食祈念した。その二十一日目に突然記憶力が目が覚めたように湧いてきて、お経を朗々と唱えだしたという故事があります。
 また現代では越智宏倫という方、重症の喘息を前述の短句繰り返し法で「治る、治る、きっと治る」と、一日二万べん(!)繰り返して、なんとちょうど二十一日目の朝、完全に治ったという凄い例があります。(産能大学出版部刊、「治る、治る、きっと治る」)。
 次に三か月間、継続しよう、これが最も大切。三月もしくは百日つづけるのは、大抵の芸能や武道などの稽古でも、その人がモノになるための最初の一里塚です。これを乗り越えた人たちは一種のカンを握っているものです。
 三か月すると、脳のなかで神経のニューロンが伸びて、次のニューロンに達し、しかも絶縁脂肪がビニールのように巻きついて、弱電流の走る時間が何十倍にも速くなり、神経の働きが活性化する。こうして新しいニューロンが完成するのに三か月かかる。だから三か月間同じ言葉、同じイメージを自分の脳に投入しつづけると、イメージや行為が定着して(私のしろうと仮説ですが)、その人の習慣となり新しい性格を作るのです。
 さらに三年間継続すると、脳のなかのあらゆる神経系統が統合化されて、完全に習慣化する。習慣は第二の天性、あたかも生まれつきの性格のように変ってしまいます。
 継続するということはかなり難しいことですが、しかし継続をやりとげる秘訣は、第一に「私は継続することが得意だ」と自分に言い聞かせて「言葉による自己強化」を行うことです。第二はたとえ二、三日なまけたとしても、あたかも一日も休まなかったかのごとくケロリとして、「大丈夫、大丈夫」と自己説得するのです。これがまた非常に大事なコツです。

  五、気分を軽快にするために、笑う練習をせよ

 以上の練習をするとき、堅くならないがよい。気軽に始めましょう。自律訓練や呼吸法などでリラックスして始めるのもよいのです。その他、いろんなリラックス法もありますし、また特に信仰による冥想や祈りによって気分を解放することも大いに推奨できます。
 しかし一番手っとり早い方法は「笑う」ことです。難しく考えないで、とにかく笑うのです。愉快でない時も、嬉しくない時も、楽しくもない時も、作り笑いでよいから笑ってみるのです。心から笑えなくてよい、笑う真似をするのです。そうすると多少とも楽しくなり、心が解放され気が軽くなったような気がします。
 その軽くなったような気がする小さな気分の変化を、更に「笑い」を利用して、倍加させ、増幅させ、強化し、笑いを継続させて、爆発的笑いに盛りあげるのです。これが上手なやりかたです。
 別に「笑えば必ず幸福になる」というパンフレットも作ってありますから、それをお読みください。くわしいことはその本で研究してください。(頒価一〇〇円)

  六、落ち込んだ時にも回復する力(悪魔を追い払え)

 残念ながら人は何度でも落ち込むものです。一度も落ち込んだことのない人がいたら、その人はたぶん天使です。以上の「心を強くする秘訣」を試みている内、「うまく行っているな」と思ったつかの間、突然自信が壊れて落ち込むような目に会うことがあります。残念ですが、よくあることです。その際、必要なことは、そこから一刻も早く、もう一度起きあがることです。
 自分に「さあ、もう一度、起き上がるのです」と前述の「言葉の力」や、「イメージの力」を使って自分を励まし、心を起き上がらせてください。これが大事です。
 あなたが既にクリスチャンでしたら、次のことを覚えてください。あなたはイエス・キリスト様の命を既に受け入れています。ですから本来、この回復する力をクリスチャンの特権として持っているはずです。
 キリストの生命は永遠の生命、永遠の生命は復活の生命です。信仰による霊的生命は何度失敗しても立ち上がれる復活の生命力です。その生命力をあなたは既にお持ちなのです。
 それであるのに、なぜ落ち込んだり、憂欝になったり、しょげこんだり、更に人をねたんだり、恨んだり、のろったりするのでしょう。最後にはクリスチャンのくせにリストカットしたり、自殺願望さえ起こったりする。あってはならぬことですし、また起こるはずもないことなのです。しかし、時にそれが起こるのです。
 それはサタン(悪魔)のささやきなのです。聖書のヤコブの手紙四章七節に「悪魔に立ち向かいなさい。そうすれば、彼はあなたから逃げ去るであろう」とあります。これが秘訣です。最後の晩餐の時、「悪魔はすでにイスカリオテのユダの心に、イエスを裏切ろうとする思いを入れていた」と聖書にありますが、悪魔の人間を誘惑する手段は人間の心に悪い思い(それは言葉です)吹き込むのです。人間はだまされて、それをあたかも自分自身が思ったかのごとく思いこむ、そこが悪魔のねらいです。
 イエス様だって四十日の断食の時、そのような誘惑にあわれました。しかし、イエス様は些かも迷われませんし、動じません。悪魔の声を駿別し、そして「サタンよ、去れ」と叱りつけるのです(マタイ福音書四章一節〜一一節参照)。しかし、イスカリオテのユダは悪魔の言葉に乗せられてしまったのです。
 私たちの模範はイエス様です。「イエス様を裏切れ」など、そんな大変な誘惑には私たちも気づきますが、ちょっとした憂欝な気分、心配、不安、恐れ、躊躇、そうした憐れな気分に、多くのクリスチャンが悩まされがちです。
 そういう時、「これはサタンだ!」と早く気づいてください。クリスチャンは先に書いたとおり、そんな気分に落ち込む筈はないのです。こういう気分は一切、サタンの誘惑である、つまりあなたの思い(言葉)の世界に、サタンが駄目な気分の言葉を吹き込み、あなたの心をゆすって喜んでいるのです。
 さあ、断言命令を下しましょう、「イエス・キリストの御名によって命じる。サタンよ、退け。お前はうそつきだ。私は決して負けない。私は神のしもべだ。お前の言葉なんかにだまされないぞ」。もっと短い言葉でよいのです、「イエス・キリストの御名によって命じる。サタンよ、下がれ!」。そうするとサタンは去って行きます。あなたを離れます。
 「サタンよ、出て行け」とは言わないようにしましょう。クリスチャンであるあなたにサタンは棲んでいるはずはないからです。もっとも橋頭堡のように、クリスチャンの感情や感覚的心の表面層に居つくことはありそうですが、こういうことは余り知らなくて結構です。(ノンクリスチャンの場合は、まず悪霊追い出しをしなければなりません。大声叱咤「サタンよ、出て行け」だけで大抵成功します)。
 この作戦が終わったら、あらためて「わが魂に命じる。心よ明るくなれ」等の自己命令法などを使って自分を立ち上がらせてください。サタンを追い払い、あらためて自己刷新を図る。これが良いのです。
              *
 (それにしても、気分が落ち込んで、イエス様の救いさえ分からなくなった。そういう時、最後の砦(とりで)は「十字架の救い」です。罪と汚辱にまみれた何の取りえもない私をただ一方的に愛し、赦し、救ってくださったイエス様を信じた最初の日に帰ることです。実は、この小冊子では最初にこの「十字架の救いに帰ること」を書いて置きたかったのですが、一般向け用としてちょっと遠慮してしまいました。
 これこそクリスチャンの基礎的信仰です。ひとたび失敗して落ち込んだ時、しばしば蟻地獄に落ち込んだように、そこから這い上がることが困難な場合、どんなに無惨に失敗した時にも、手を貸して汗も涙もぬぐい、失望から再び希望へと引き上げてくださるイエス様のところに帰りましょう。この小冊子は実技的な本ですが、そのすべてがうまくゆかない時にも、十字架のイエス様のふところに帰ることは一切の解決策の根本です。)

    お わ り に

 以上、「意志を強固にし、行動エネルギーを高め、感性を豊かにするため心の技術」を書きました。もともとはクリスチャンむけの「信仰の自己訓練(第一テモテ四・七)」のテキストにする予定でした。
 クリスチャンは霊においては、既にイエス様を信じて救われています。しかし、地上で生きるのに力が弱いという人が大勢います。そういう人でも死ねば天国に迎えられます、大丈夫です(第一コリント三・一二〜一五参照)。
 とは言え、地上で生きてゆくことが非常に下手なクリスチャンが多いのです。この世の勢力に負けてしまうのです。そういう人はこの世で生きるバイタリティが必要です。
 「信仰さえあればいいのだ」と言う先生方もいます(確かにそうです)が、この時代に快活にやって行くには、もっと信仰の「力」が必要です。聖霊の賜物を頂戴しますと、更に驚くべき力を発揮できます(第二テモテ一・七参照)が、そのことは今は述べません。
 多くのクリスチャンは、心の領域においてこの地上で快活にやって行ける力を、もっと強めることが大切です。又どなたにも可能です。多くのクリスチャンはこのことを知らずに大きな損失をしています。旧約聖書の箴言などには、こうした心の領域での強化法がたくさん書かれてあるのです。パウロ先生がいう「心の法則」の戦場というものがあります。その戦場で罪や世の勢力と戦って勝利する自己訓練をせねばなりません(ローマ七・二三参照)。
 この方法を信仰とは別に、金や物や、地位、名誉の世界で成功するコツとして、うまく利用して生きてゆく人がいます。敬虔なクリスチャンの方々はそうした人をいまいましく思うかもしれません。私のこの冊子も信仰的でないと言って非難されそうな気もします。その「非難」は私も理解できるのですが、あえてこの冊子を作りました。私の意のあるところをお汲み取りください。
 大胆に言えば、信仰は無くったって、明るい人は人々に愛されます。悪徳商人だって大胆積極心で商売に成功します。善人がやっても悪人がやってもアクセルを踏めば自動車は動きます。善人でも悪人でもテコを使えば重いものも軽々動きます。善人、悪人の区別はありません。
 この心の領域の力を大胆に用いて成功した人(少くとも一時、成功したかに見える人)は、この世には沢山います。たとえば、アレキサンダー、シーザー、ナポレオン、ヒットラー、スターリン、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、これら歴史上の人々は別として、卑近の例では松下幸之助さん、本田宗一郎さん、かつての宰相・田中角栄さん等。なかには決して誉められない人々もいます。「善は栄え悪は滅びる」という常識的道徳観に反して、悪人で成功する人が多いのは、彼らが心(魂)の領域の法則を知ってか、知らずでかは分かりませんが、それを利用しているからです。
 クリスチャンでしたら、既にそうした心(魂)の力のコツを握っているとしても、更に「聖霊による能力」や「品性の向上完成」等の信仰の領域を広げていただきたいものです。(二〇〇一年一〇月二六日第五版改定の折)
 「六、落ち込んだ時にも回復する力」の最後のところで、クリスチャン向けの「サタンに立ち向かえ」の短い文章を加えました。これは「聖化論」の実技的金字塔であるまいかとさえ思っています。
 微力ながら、この小さい冊子ですが、お役にたてると信じます。お読みになっての上の、ご意見や、ご質問をどうぞお寄せください。(二〇〇五年三月二三日第七版改訂の折)